※今回の記事は、原作小説「82年生まれ、キム・ジヨン」のネタバレにも触れているんですが、ラストを知らないで読んだ方が絶対面白いので、未読の人はこのブログを読む前に小説版を読んで!m9`Д´) ビシッ
※ちなみに、本作に興味がある方は、まず映画を観てから小説を読んだ方が良いような気がします、たぶん、きっと。
原題:82년생 김지영 Kim Ji-young: Born 1982
2019/韓国 上映時間118分
監督:キム・ドヨン
脚本:ユ・ヨンア
原作:チョ・ナムジュ
撮影:イ・スンジェ
編集:シン・ミンギョン
音楽:キム・テソン
出演:チョン・ユミ、コン・ユ、キム・ミギョン、コン・ミンジョン、キム・ソンチョル、イ・オル、イ・ボンリョン
パンフレット:★★★★☆(900円/3つの素晴らしいコラムにキーワード解説、レポート用紙風のデザインと、褒めるところだらけ)
(あらすじ)
結婚を機に仕事を辞め、育児と家事に追われるジヨンは、母として妻として生活を続ける中で、時に閉じ込められているような感覚におそわれるようになる。単に疲れているだけと自分に言い聞かせてきたジヨンだったが、ある日から、まるで他人が乗り移ったような言動をするようになってしまう。そして、ジヨンにはその時の記憶はすっぽりと抜け落ちていた。そんな心が壊れてしまった妻を前に、夫のデヒョンは真実を告げられずに精神科医に相談に行くが、医師からは本人が来ないことには何も改善することはできないと言われてしまう。(以上、映画.comより)
予告編はこんな感じ↓
70点
※今回の記事は「ストーリー・オブ・マイライフ/わたしの若草物語」のネタバレに触れているので、気をつけて!
最近の僕は「お砂糖とスパイスと爆発的な何か: 不真面目な批評家によるフェミニスト批評入門」を読んだのをキッカケに、簡単なフェミニズム関連の本を何冊か読んだりしているんですけれども。愛聴しているラジオ番組「アフター6ジャンクション」の「今が読みどき! 韓国文学を楽しむための入門講座 」で取り上げられていたフェミニズム文学「82年生まれ、キム・ジヨン」については「わざわざ小説で読まなくてもいいかな」気分だったし、映画の方もスルー予定だったんですけれども。これまた「アフター6ジャンクション」で今週の「ムービーウォッチメン」の課題映画になったので、「付き合いだしな ( ´_ゝ`) シカタナシ」と観ることに決定。とりあえず原作本を読んだりしてね。10月15日(木)、新宿シネマカリテで「クライマーズ」を観てから、新宿ピカデリーで鑑賞いたしました。「ナルホドねェ (゚⊿゚)」と思ったり。
2番スクリーン、50人ぐらい入ってたような。昼間にしてはかなり多め。
鑑賞後の僕の気持ちを代弁する愚地独歩を張っておきますね(「グラップラー刃牙」第35巻より)。
最初にあらすじを超雑に書いておきますと。82年生まれのキム・ジヨン(チョン・ユミ)は、娘を出産してから、自分が「女性」「妻」「母」だということに起因するさまざまな抑圧を強く意識するようになり(過去の出来事も含めて)、それによって「身近にいた人の人格」がたまに憑依するようになってしまいまして。悩んだ夫のデヒョン(コン・ユ)が精神科医に相談するも彼女の状態は悪化する一方で、そんな時、娘の病状を知ったジヨンの母ミスク(キム・ミギョン)は、息子を重視する無神経な父ヨンス(イ・オル)を説教。それを機に、猛省した家族たちが「ジーク・ジヨン!ヽ(`Д´)ノ ウォォォォッ!」と“支えモード”にフォームチェンジするとともに、己の状態を把握したジヨンは自ら精神科に通院するようになりましてね。カフェで自分のことを「ママ虫」呼ばわりしたサラリーマン(a.k.a.クズ野郎)に説教をかまして、「気は晴れずとも悪くはなかった ( ̄ー ̄し ニヤッ」と話すジヨンの心の状態は良さげであり、デヒョンが育児休暇を取得したっぽいムードが流れる中、ライター(作家?)デビューを果たした彼女は「82年生まれ、キム・ジヨン」っぽい原稿を執筆し始めるのでしたーー。
ラストのジヨンはグレート巽っぽくなってましたよ、確か、なんとなく(「餓狼伝」第6巻より)
ここまで読んだ人の多くが「こいつ、単に『ジーク・ジヨン』って書きたかっただけじゃないの…?( ´д)ヒソ(´д`)ヒソ(д` )」と看破して次々とそっ閉じしているだろう状況からは積極的に目を逸らすとして。基本的には楽しめました。キム・ドヨン監督は、これが長編デビューとは思えないほどしっかりした語り口というか、違和感を覚えるシーンは皆無だったし、「この要素はこうアレンジしたのか!Σ(゚д゚;)」と原作本と比較しながら観るのも非常に面白かったし(全体的にマイルドな感動テイストになってた)、役者さんたちの演技振りも良かったです。
キム・ジヨン役のチョン・ユミによる「どっちの精神状態に転ぶか分からない不安定さを感じさせる繊細な演技」は見事としか言いようがないし、コン・ユも“家父長制に違和感を感じつつも完全には抜け出せない「普通の善良な夫」”役がさすがのクオリティ。特に首を吊られた状態から肩の関節を外して自力で脱出するシーンは圧巻でした…って、やだ、「サスペクト 哀しき容疑者」が混ざっちゃった!(*ノ▽ノ) キャッ ただ、僕的に一番グッときたのはジヨンの母ミスクを演じたキム・ミギョンで、さまざまな回想シーンでの“娘を思いやる目線”が良かっただけでなく、“ミスクの母”が憑依したジヨンに慰められた彼女が涙を流すシーンは超素晴らしかったですねぇ…(映画オリジナルの場面の中では一番好き)。
絞首刑から生還する“体脂肪3.7%の肉体のコン・ユ”が観られるのは「サスペクト」だけ!m9`Д´) ビシッ
「ジヨンが作家になって『82年生まれ、キム・ジヨン』っぽい原稿を書き始める」という映画オリジナルのラストは、近作の「ストーリー・オブ・マイライフ/わたしの若草物語」を連想しました。実は最近、僕は「不遇な立場の人が歌手やらラッパーやら作家やらになって窮状を脱する」系の作品に対して「じゃあ、才能がない人間はどうしろってんだよ ( ゚д゚)、ペッ」と若干反発する傾向があったんですけど(苦笑)、本作や「ストーリー・オブ・マイライフ〜」については「抑圧されてきた女性たちが言葉を獲得した→声を上げられるようになってきた」ってことのメタファーでもあるのだろうなと。僕自身、このブログを書くようになってから、前以上に自分自身の考えをまとめられるようになったものね。言葉大事。
あと、デヒョンが妻に彼女自身による奇行動画を見せてから泣くシーン、最初は「おやおや、自己憐憫ですか、いい気なものですね ┐(´ー`)┌ ヤレヤレ」と少し呆れたものの、よくよく考えれば「彼1人ではどうしようもなかった状況なんだよな」と。パンフで“原作小説の翻訳者”斎藤真理子先生が著者の意図を指摘されていて「我が意を得たり!Σ(°д° ) クワッ!」と激しく同意したんですが、コン・ユをキャスティングして、デヒョンを原作以上に「優しく善良な夫」にしたことによって「すべてを夫(個人)のせいにしない→社会システムの問題」だということをさらに強調していた…ってのは、映像化に際しての見事な改変ではないでしょうか。まぁ、逆に映画オリジナルシーンでは、デヒョンがムカつく同僚にコーヒーをかけるのはやりすぎに感じましたが…。
どうせならコーヒーではなく鉢植えにしてほしかった。コン・ユの鉢植えストライクが観られるのは「トガニ」だけ!m9`Д´) ビシッ
ただ、そんなに褒めまくっているのに70点にしたのは、原作がスゴかったから。最近、読んだフェミニズム関連の本では一番わかりやすく、そしてキツかったです。小説は、精神科医の語りで始まるんですが、「キム・ジヨン」という韓国で一般的なネーミングの女性が、少女時代から就職→結婚→出産→育児をしていく過程を描くだけでなく(序盤は「はちどり」を連想した)、要所要所で「どれだけ女性が差別されてきたか?」を裏付けになるデータとともに加えていくんですよ(そもそも主人公を82年生まれにしたのは「男女の出生統計が最もアンバランスだったから(胎児が女の子の場合、堕胎されるケースがあったとか…)」という徹底ぶり!)。もうね、ジヨンが体験する差別があまりにも酷いから、ちょっとしたディストピアSFを読んでいる気分になるものの、よくよく考えれば、日本人男性として生きてきた僕だって「同じような女性差別が日本で行われてきた」ことを知っているだけに「じゃあ今の社会は、女性にとってどんだけディストピアなんだよ… ('A`)」と。
特にギョッとしたのがオチですよ。語り部だった男性の精神科医は、差別されてきたジヨンの人生に同情的なんですけれども。最後、自分の身の回りの話になると「育児の問題を抱えた女性スタッフは難しいから“未婚の人”を探さなきゃ」とか言い出して終わるから、根深すぎて終わらない地獄!(°д°;) ヒィィィッ! もうね、「夫以外の男性キャラには名前を与えていない」というミラーリングも強烈で、本当に良く出来た本だと感心したし、僕的にこの「女性差別の根深さを見事に表現したブラックなラスト」があまりに衝撃的だっただけに、映画の終わり方はやっぱり残念でしたね…。
つーか、正直なところ、他のドラマ部分でも原作からビンビン伝わってくる「怒り」がすっぽり抜け落ちた感があって、そこは物足りなくて。身近な男性たち(父・弟)まで理解者になってくれるあたりとか、「人間は変われる」という希望を描いていて、それはそれで良い感じではあるものの、原作の「怒り」を浴びまくった僕的には、ごめんなさい、スゲー温く感じちゃいました(逆に女性のチーム長にやりこめられた男性理事がプレゼン中に暗闇で見せる怒り顔はリアルで良かった)。いや、パンフのコラムで山内マリコ先生が本作の「マスへ向けた姿勢」を擁護していて、その気持ちも分かるというか、映画化するに際して仕方ないとも思うんですがー。こうなると、映画→小説の順番がベストだったような気がするんですけど、後悔先に立たず。
原作本は、読了後にこんなツイートをするぐらい面白かったのです(胃も痛かったけど)。
「82年生まれ、キム・ジヨン」、読後感が最悪で最高!巻末の解説もわかりやすくてタメになったし、一気に読んじゃいましたよ。映画が楽しみです。 pic.twitter.com/IQPopnhk9r
— カミヤマΔ (@kamiyamaz) October 14, 2020
ううむ、それにしても女性差別の問題って難しいですよね…。僕なんて母1人姉2人の家庭で育ち、現在も妻と娘とお義母さんと暮らしていて、常に女性たちが身近にいたから差別なんてしたことがない…なんてことはなく。日本人男性として「女性にとってフェアじゃない社会」のメリットをそこそこ享受して差別に加担してきたし、過去に付き合った女性たちに対して、無神経な態度をとったことも少なくなかったと思う。正直なところ、彼女たちから「いつのことだか、思いだしてごらん! あんなこと、こんなこと、あったでしょう!? 川`Δ´)」と「おもいでのアルバム」ライクに具体例を出されながら指摘されたら、やはり泣きながら焼き土下座せねばなるまい…と胃が痛くなるのです。
残念ながらこれからだって気付かずに差別しちゃったりすることがないとは言えないし、そもそも僕の妻は大丈夫なのだろうか。一応は2人で話し合っていろいろと決めてきたと思うけど、大きな不満を抱えていたりするのだろうか… (´Д`;) アァン とはいえ、無闇に悩んでも仕方なし。カリスマ編集者・箕輪“でもキスしたい”厚介さんがパワハラ&セクハラしたにもかかわらず幻冬舎は何の処分もしなかった件のように、問題が発生したら「トラップ」とかツイートしてなし崩しに逃げるのではなく、しっかり向き合って反省して、自分なりにアップデートしていくしかないんですよね。そして、もしそういう状況を目撃したら、ちゃんと指摘していかなければならないんでしょうな(でも、普段は意識が高い発言をする人が「自分の利益が絡む場所の問題」には触れられなかったりするように、なかなか難しい話ではあるのです、みんな生活があるのだもの、人間だもの (´・ω・`) ミツヲ)。
ということで聞いてください、miwaさんで「アップデート」↓(ラジオパーソナリティ風のドヤ顔を添えてーー)
その他、思ったことを書いておくと「韓国の家父長制描写、本当に苦手…(日本以上に”男子”と“上下の立場”を強調する感があってキツい)」とか「義母役の人もナチュラルに嫌な感じで良かった」とか「クライマックス、カフェで子連れの主婦がコーヒーを派手にこぼしたら、店員や周囲の人も掃除を手伝ってくれるのでは?」とか「韓国は徴兵制があることが日本以上に問題を根深くしていると思う」とか「現在、僕も心療内科に通っていますが、なかなかラクになるので、悩んでいる人は行くと良いです」とかとかとか。先に原作小説を読んでしまったため、変えたところを「ナルホドねェ (゚⊿゚)」と冷静に観てしまう部分が多かったし、納得いかない改変もありましたが、トータルすると良い映画じゃないでしょうか。「男性だって大変なんだ!(`Δ´)」なんてことは置いとくとして、人によっては多くの「気付き」がもらえる作品だと思うので、観ておくと良いザンス。
チョ・ナムジュによる原作本。女性だけでなく、男性も読むといいんじゃないかしらん。
サントラがあったので、貼っておきますね。
チョン・ユミとコン・ユが初共演した地獄ムービー。僕の感想はこんな感じ。
チョン・ユミとコン・ユが再度共演した映画。僕の感想はこんな感じ。
僕の中の「ベスト“コン・ユ”」はこのコン・ユ。感想はこんな感じでございます。