2021/日本 上映時間124分
監督:土井裕泰
脚本:坂元裕二
企画:孫家邦、菊地美世志、那須田淳
プロデューサー:有賀高俊、土井智生
撮影:鎌苅洋一
照明:秋山恵二郎
録音:加藤大和
美術:杉本亮
装飾:茂木豊
衣装:立花文乃
ヘアメイク:豊川京子
撮影効果:実原康之
編集:穗垣順之助
音楽:大友良英
インスパイアソング:Awesome City Club
VFXプロデューサー:赤羽智史
スクリプター:加山くみ子
イラストレーション:朝野ペコ
助監督:石井純
製作担当:宮下直也
出演:菅田将暉、有村架純、清原果耶、細田佳央太、韓英恵、中崎敏、小久保寿人、瀧内公美、森優作、古川琴音、篠原悠伸、八木アリサ、押井守、PORIN、atagi、モリシー、佐藤寛太、岡部たかし、オダギリジョー、戸田恵子、岩松了、小林薫
パンフレット:★★★★★(900円/今年のベストパンフ候補筆頭。本作が好きな人は絶対買うべし)
(あらすじ)
東京・京王線の明大前駅で終電を逃したことから偶然に出会った大学生の山音麦(菅田将暉)と八谷絹(有村架純)。好きな音楽や映画がほとんど同じだったことから、恋に落ちた麦と絹は、大学卒業後フリーターをしながら同棲をスタートさせる。日常でどんなことが起こっても、日々の現状維持を目標に2人は就職活動を続けるが……。(以上、映画.comより)
予告編はこんな感じ↓
80点
※本作については、そーす太郎さんのレビューが面白かったので、読んでみてッ!
2月1日(月)、ファーストデイ割引を利用して、TOHOシネマズ新宿で鑑賞しました(その後、カレーを食べる→喫茶店で仕事→「ウォーデン 消えた死刑囚」と「ジャスト6.5 闘いの証」をハシゴ鑑賞)。「完成じゃ ( ´_ゝ`) エラソウ」と思ったり。
9番スクリーン、平日の朝8時30分からの回ながらも30人ぐらいはいたような。
鑑賞後の僕の気持ちを代弁する郭海皇を貼っておきますね(新装版「バキ」第16巻より)。
劇場で予告編を見た時は「自分から積極的には観に行かないタイプの映画だな (゚⊿゚) ミナイナー」と思ったし、毎月アップしている「観たい映画の覚え書き」に作品名すら載せていないほど興味がなかったんですけれども。愛聴しているラジオ番組「アフター6ジャンクション(略称:アトロク)」の週刊映画時評コーナー「ムービーウォッチメン」の今週の課題映画になったのでね、渋々と劇場へ足を運んでみれば、これが非常にグッとくる作品だっただけでなく、僕的に“理想的な恋愛映画”だと思わされるほどだったのだから、映画鑑賞とは面白いもの、ですな(知った風な口で)。ちなみに今年から「ガチャ候補になった作品はすべて観る」つもりなので、課題にならなくても観る予定ではあったんですがー。
話を雑に書くと、映画は2020年、山音麦(菅田将暉)と八谷絹(有村架純)が、お互いに恋人っぽい人を連れた状態でカフェで偶然再会するところからスタートしましてね。そこから場面は2015年になって、大学生だった2人が終電を逃した&押井守監督を目撃したことを機に仲良くなって、デートを重ねて、付き合うことになって、同棲を始めて、黒猫を飼い始めて、倦怠期に突入して、別れるまでの5年間が描かれる…ってな調子。最後は再会するも知らない風を装いつつ別れて、再会をお互いがどう思ったかを見せた後、麦が「2人が一緒に歩いている姿がストリートビューに映っている」のを発見して、終わってたんじゃないかしらん。
この2人が同棲した挙げ句に別れてましたよ(身もフタもないあらすじ紹介)。
まぁ、ドラマチックなことは大して起こらないんですけど、役者さんたちに当て書きしたという「2人の会話」が面白いだけでなく、話の展開やら衣裳やら美術やらのディティールがリアルだから全体的になかなか現実感があって、ついつい映画に引き込まれちゃう感じ。主人公たちの「恋愛時ならではのときめき」や「気持ちの移り変わり」だけでなく、2人が付き合っていた5年間の社会状況をくどくなくサラリと見せているのもまた見事でしたな〜。監督の土井裕泰さんと脚本の坂元裕二さんの作品は、数十年前にドラマを少し観たぐらいだし、恥ずかしながら今までそのお名前を意識したことはなかったんですけど、ストレートに「スゲェな (°д°;)」と。確か公開当時に結構評判が良かった「ビリギャル」とか、2人が組んだドラマ「カルテット」とか観たくなりましたね。
もうね、主演の2人がスゲー良くて、代表作になるんじゃないでしょうか。
美術もリアルでした。僕の親友夫婦が同棲してた部屋にスゲー似てて驚きましたよ。
僕が特に好きだったのは、クライマックスからエピローグにかけての展開でして。まず、ファミレスでお互いに「別れ話をするぜ」ムードが全開の中、とはいえ、麦は絹と「恋愛感情がなくなっても、仲良しなんだから結婚すればいいじゃない」的な話をして、そうなりそうな雰囲気も漂うワケですが…。そこで“かつての自分たち”を思わせる若いカップルが、“かつての自分たち”を思わせる会話をするんですよね…“かつての自分たち”が座っていた席で。あれは効く。もしかしたら、また“ファミレスで熱いトークができる恋人”は見つかるかもしれないけど、あの時の「無邪気さ」は戻らないワケでさぁ…。あの懐かしさと羨望と喪失感が入り交じった麦と絹の顔、そしてファミレスを出てから抱き合うシーンはね、お父さん、100点だと思ったぞ(唐突な父親ヅラ)。
ファミレスを出てハグするシーン、「あぁぁぁ… (´Д`;)」って感じでしたよ(伝わりにくい文章)。
そして、別れることになった後、湿っぽくないのがイイッ!(°∀°)b イイ! 吹っ切れた2人の「友だち感」が素晴らしいし、何から何まで趣味が合っていたと思っていた2人が実は相手に合わせていたことが分かる展開も愉快でしてね。ハッキリ言って、別れたらすぐ道に倒れて相手の名を呼び続けるようなタイプであり、別れた相手からも「あんなこと、こんなことあったでしょう!? 川`Δ´) フザケンナ!」と詰られそうな僕ですよ(苦笑)、かつて宇多丸師匠が「別れた人を嫌いになる必要ないじゃん」「友だちとして関係が続いている人もいますよ」みたいなことを仰有っていたのを聞いた時は「そんなSFみたいな話があるかよ!(`Δ´) ツクリバナシ!」と安く反発していたんですが、しかし。本作を観たら「あるのかもしれないな」と思ったし、何よりも「恋愛とはこうあってほしいな」と。そして、そこからの「付き合っていた当時の2人がストリートビューに残っていたラスト」はさ、序盤のどうってことない麦の自慢が伏線になっているのが良かっただけでなく、恋愛がもたらすポジティブな思い出の象徴のように感じられて、涙が止まらなかった。
僕は「夫婦の別れを描いた映画」では昨年観た「マリッジ・ストーリー」がベストなんですが、唯一の不満は「浮気」が原因だったことでしてね。なんて言うんですかね、もちろん「浮気」や「不倫」がキッカケになることも多々ありますけど、恋人同士や夫婦って劇的な要素がなくとも別れるものじゃないですか、残念ながら。特に「進学」「就職」「結婚」「出産」「親の問題」などなど、大きく状況が変わる時ほど2人の関係性もまた変化しがちなワケで。とはいえ、「劇的なドラマがないと作品として面白くならない」という懸念もなくはない中、本作は「恋人同士の機微」をしっかりと描くことで、「なんとなくスレ違いが続いて別れる」という地味な話を面白く見せたところに感心した…というだけでなくッ!
あのストリートビューのラストは「(別れも含めて)恋愛って良いよね」と言われているようで(実際、パンフレットのインタビューで坂元裕二さんは「うまくいってもいかなくても恋愛っていいね、恋をしたいねって思えるようにするのがラブストーリーを観る人との約束だと思う」と語ってたので、我が意を得たり!Σ(°д° ) クワッ!)。そのメッセージはさ、正直、過去の恋愛を思い出すと即「いまにみておれでございますよ」気分になりがちな僕からすると綺麗事に感じなくはないけど、でも、とはいえ、至極真っ当だと感動いたしました。全力を尽くした試合だと負けても意外と清々しかったりするように、「別れてもポジティブな気持ちで振り返ることができる恋愛」はすべて「花束みたいな恋」と言えるのだろうし、ちょっと大江千里さんの「dear」の歌詞を思いだしたというか、お父さん、そういう恋愛をしてほしいな(唐突な父親ヅラ)。
こういう「幸せだった時間」を思い出せる恋愛って、(引きずらないなら)スゲー良いと思うのです。
僕もちょうど19〜24歳の時、同い年の女性と付き合っていて。結婚しようと思いつつも僕が仕事一辺倒になったことが大きな原因となって別れただけに、自分を重ね合わせて観る部分が少なくなかったけど、そーす太郎さんのブログとか読むと、本作の主人公たちと世代が同じ人はさらに思い入れ&共感度が違うんでしょうな。その他、思ったことを書いておくと、「あそこまで趣味が同じな上に、同じライブのチケットまで持ってたら、その時点で結婚を決意すると思う」とか「『パーがグーに勝つのはおかしい』って、ずっと僕も思ってました…」とか「あの時代に押井守監督の話になるなら『ガルム・ウォーズ』などの実写作品の是非が話題になるのでは?」とか「あの2人は『ライムスター宇多丸のウィークエンド・シャッフル』とか『アトロク』を聴いてそう…と思ったら『菊地成孔の粋な夜電波』派だったものの、モロに『何かが始まる予感がした』という台詞があったから、やはり『アトロク』リスナーかと思いつつも『さわやか』のハンバーグにソースをかけて食べていたので違うのでは…という、どうでもいい考察(宇多丸師匠は『塩』派)」とかとかとか。
そういえば「アヴァロン」が苦手だから「ガルム・ウォーズ」はスルーしたんだっけ…なんてことを思ったり。
あと、特筆しておきたいのがパンフレットで、マジで素晴らしいのひと言。料金設定は900円と高めに感じますが、関係者インタビューだけでなく、三浦しをん先生や門間雄介さんによるレビュー、佐野亜裕美さんと佐久間宣行さんの対談、トミヤマユキコ先生によるブックリスト、森直人さんによるウォッチリスト、辛島いづみさんによるプレイリスト、那須千里さんによる京王線コラムなどなど、読み物が超充実しているのです。シカモ、スケッチブックを模したデザインが素敵な上に(デザイナーは石井勇一さん)、劇中の2人が持っていた「天竺鼠」のチケットや「わたしの星」のチラシまで挟まっているし、ページのあちらこちらには朝野ペコさんの超キュートなイラストが散りばめられていてね…。編集したリトルモアの凄さを感じるとともに、これで900円なんてあまりにも安すぎるから、逆に「朝野さん、3カット1000円とかで搾取されてないかな…」と少し不安になるほどだった次第(大きなお世話な文章)。
スケッチブックを模したデザインの時点でときめくワケですが…。
イラストを使った間取り紹介など、素敵なページが目白押しなのです(しかもコメントしてるのは麦と絹という気が利いた設定)。
劇中に出てきたモノローグまでイラストになってたりして、なにこのサービス精神。
写真にもこうやって「遊び」をいちいち入れてくるあたりが憎いッ! 憎らしいッ!
そして、劇中に出てきたチケットまで付いてるエゲツなさですよ(少し「KING OF STAGE ~ライムスターのライブ哲学~」を連想)。
パンフを読んだ後の僕はすっかり加藤清澄気分だったというね(「グラップラー刃牙」第33巻より)。
何はともあれ、率直に書くと、過去の恋愛を重ねてしまって懐かしさで胸が一杯になりつつも(とにかく恋愛における「あるある」描写が多い)、とはいえ、「48歳のオッサンが今さらこういうのを観てもなぁ (・ε・)」と、意外と冷めていた自分もいたので80点という信用ならない採点基準。ただ、そんなにこのジャンルの作品を観てきたワケではないですけど(汗)、恋愛映画の新たな傑作が完成したのは間違いなくて。「恋愛はコスパが悪い」なんて言われる昨今ですが、若者も中年も老人も本作の主人公たちのように、ピースフルに「花束みたいな恋」をしてほしいな…なんて思います。おしまい。
土井裕泰監督作。観ないタイプの映画ではありますが、評判が良かったのを覚えております。
土井裕泰監督×坂元裕二さんによるドラマ。これも評判が良かった記憶。
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