ロープ 戦場の生命線
原題:A Perfect Day
2015/スペイン 上映時間106分
監督・製作・脚本:フェルナンド・レオン・デ・アラノア
製作:ハウメ・ロウレス
製作総指揮:パトリシア・デ・ムンス、ハビエル・メンデス
原作:パウラ・ファリアス
脚本:ディエゴ・ファリアス
撮影:アレックス・カタラン
美術:セサール・マカロン
衣装:フェルナンド・ガルシア
編集:ナチョ・ルイス・カピヤス
音楽:アルナウ・バタレル
出演:ベニチオ・デル・トロ、ティム・ロビンス、オルガ・キュリレンコ、メラニー・ティエリー、フェジャ・ストゥカン、セルジ・ロペス
パンフレット:★★★(600円/伊勢崎賢治先生のコラムが超わかりやすくてタメになりました)
(あらすじ)
1995年、停戦直後のバルカン半島。ある村で井戸に死体が投げ込まれて生活用水が汚染され、国際活動家「国境なき水と衛生管理団」のマンブルゥ(ベニチオ・デル・トロ)らが現地に派遣される。しかし死体を引き上げている最中にロープが切れてしまい、代わりのロープを探しに行くことに。1本のロープを求め、武装集団や地雷の恐怖にさらされる危険地帯へと足を踏み入れるマンブルゥたち。やがて不良にいじめられていた少年ニコラと一緒に彼が住んでいた家を訪れたマンブルゥたちは、そこで驚くべき事実に直面する。(以上、映画.comより)
予告編はこんな感じ↓
80点
※本作はスゲー良い映画であり、ネタバレを知らない方が面白いと思うので、未見の方は感想を読まない方が良いです。
僕は基本的に「アクション映画を好む男」ですけれども。戦争や紛争を題材にした作品にはそれなりに興味があったりするし、何よりも前売り特典にロープを付ける姿勢にハートを掴まれて、思わず前売り券を買っちゃいましてね。2月下旬、横浜のシネマ・ジャック&ベティにて鑑賞いたしました(この日はその後、続けて2回目の「わたしたち」と「ライオンは今夜死ぬ」を観てから、日本橋で「パディントン2」を観た)。「大変だなぁ… (´・ω・`) ウーン」って思ったり。
この日は、娘を保育園に送るとすぐ黄金町へ行って、「えきめんや」にイン。
「まぐろ親父のトロ天そば」を味わってから、シネマ・ジャック&ベティへ。
劇場には記事の切り抜きなどがありまして。
観たのはスクリーンジャックの方で、観客は10人程度だったような。
ちなみに、前売り特典の「万が一の時これがあれば大丈夫!最強防災3点セット」は、軍手・ロープ・笛のセットでしたよ。
最初にお話を適当に書いておくと、舞台は1995年、ボスニア紛争の停戦直後っぽいバルカン半島の“どこか”。何者かによって村の井戸に死体が投げ込まれて、生活用水が汚染されてしまいまして。国際NGO“国境なき水と衛生管理団”のメンバー(諦め気味ながらも情熱を内に秘めたリーダー、ブラックジョーク大好きな冷笑系熊男、理想に燃えるも現実の壁にぶつかって凹む系新人の3人+現地人の通訳)が死体の引き揚げを試みるもロープが切れてしまったので、他のロープを探すもなかなか見つからない…ってな調子。で、最終的には、行きがかりで保護した少年ニコラの両親が吊されていたロープを使用して引き揚げようとするも、新人が国連に画策したのが裏目に出て、中止命令が出てしまったので、泣く泣くロープを切断するハメに… ('A`) アーア で、「仮設トイレが詰まった」との報を受けて、みんなで別の現場に向かう中、雨が降り出したのでゲンナリムードになったものの、そのおかげで井戸から死体が浮き上がったので、村人たちはロープを引っ張って井戸から死体を出したのでしたーー。
映画は水死体のアップからスタート。井戸から出そうとするも、ロープが切れてしまいまして。
で、ロープを探しに行ってみれば、世知辛い出来事が連打されるというね。
本作は、実際に紛争地域で援助活動家と一緒に仕事をしたり、国境なき医師団のドキュメンタリーを撮っていたフェルナンド・レオン・デ・アラノア監督が、パウラ・ファリアスという国境なき医師団の医師兼作家の小説「Dejarse Llover」をベースに作ったそうですが、スゲー世知辛い&スゲー面白い映画でしたよ。本当に良く出来ていて、長編デビュー作「カット!世にも奇妙な一族」
などの“他の作品”も観たくなったほど。派手な戦闘や爆破シーンなどは皆無ながらも、地味でキツく、そしてユニークなドラマが展開されていって、106分間、まったく飽きなかったです。
まず、「紛争地帯がわかる映画」としてタメになりました。いや、もちろん「フィクション」ですから、ある部分はオブラートに包まれていたり、ある部分は誇張されていたりするんですけど、NGOと国連軍と現地の人々の微妙な関係性とか、現地の人々の生きる姿勢とか、かなりリアルに感じたというか。例えば、現地の人が「ロープを売らなかった」のは、いくらNGOでもやっぱり“よそ者”だからなんですよね。それが顕著になるのは、終盤、ニコラに与えたボールを他の少年が持っていたことにマンブルゥがキレて介入してしまうシーンだと思っていて。結局、彼らは彼らのルールで生きていて(ニコラがボールを売っていた)、マンブルゥだって十分承知していたベテランのハズなのに、そんな彼ですら、つい一線を越えて「正義という名のエゴ」を振りかざして失敗してしまう。苦いけど、スゲーわかるなぁと。なんかね、近所の公園で娘のマナ子(仮名/6歳)に失礼な口を叩いたクソガキに激怒しつつも、やはり子ども同士の争いに大人が介入すべきではないと、血が滲むほど下唇を噛み締めて殺害をガマンしたことを思い出した…って、一緒にされたら困りますヨネ (ノ∀`) スミマセン
井戸に死体を投げ入れたクズども(たぶん)が水を売る場面、苦々しいながらも、介入しちゃダメなのです。
通訳の人(フェジャ・ストゥカン)が兵士に「お前の家族を知っているぞ」みたいなことを言われてゲッソリするシーンもそうで、現地の人々はすべてにリスクを負っているけど、NGOの人たちはいくら危険な状況で頑張っていても“お客さん”でしかないんですよね、残念ながら。とは言え、それでもNGOの人たちは、子どもが銃を持って脅してきたり、道に地雷が仕掛けられていたりするような場所で、「でもやるんだよ!」の精神で日々の業務にあたるのだから、頭が下がるというか。僕なんて、いくらお金がもらえるとしても、まったくやりたくない…という身もフタもない文章。もうね、「戦場のユーモア」ライクにブラックジョークを飛ばしながらハードな状況を乗り越えようとする主人公たちの姿は、実にカッコ良かったです。
牛が道端に置いてあって、周囲に地雷が仕掛けられているとか、地獄の職場ですな。
本作は「人生、するかしないか」で「する」を選んだ人々の物語なので、伝説の名解説を貼っておきますね↓
そして、脚本が見事でしたよ。本作は、ロープを探すNGOたちの眼を通じて紛争地域の大変さをユーモアを交えながらわかりやすく伝えている上に(つーか、笑える場面は多い)、理想に燃える新人ソフィー(メラニー・ティエリー)の“新兵モノ”としての面白さがあるんですが…。彼女が国連軍とのブリーフィングの時に余計なことを言ったばかりに、ラストで死体の引き揚げを邪魔されたりとか、とにかく伏線の張り方と回収振りが上手いなぁと。ニコラの“避難したハズの両親”が吊されていたロープを使うという皮肉な展開や、牛飼いの老婆の後を追うことで地雷を回避するくだりも良く出来ていると感心いたしました。
少年の両親が吊られていたことが発覚する場面はなかなかショッキングでしたな… (`Δ´;) ヌゥ
特に感動したのがラストで、新兵ソフィーに「A Perfect Day」(原題)という“最悪だった1日を表したジョーク”を言わせて、彼女が“一人前の戦士”になったことを表現しただけでなく。「雨によって井戸から死体が浮いてくる」という展開をよくよく考えると、井戸に死体を投げ入れた連中はそれを折り込み済み→短期的な水商売の可能性があって。となると、NGOの人たちがロープを探したこと自体、事情を知らない“よそ者”によるムダな右往左往だったのかもしれないんですが、しかし。死体を縛ったロープは引っ張り出すことに役立ったワケですよ。なんて言うんですかね、「ムダに思えることでも、どこかで実を結ぶことがある」というかさ、NGOだけに留まらない、「報われない仕事に従事する人々へのちょっとした賛歌」に思えてね、大粒の涙がこぼれた次第 ( ;∀;) イイエイガダナー
一応、クライマックスに流れるマレーネ・ディートリヒ版の「花はどこへ行った」を貼っておきますね↓
その他、「役者さんは全員素晴らしいんだけど、何よりもベニチオ・デル・トロの演技が100点!」とか「ティム・ロビンスが熊っぽくてビックリした」とか「オルガ・キュリレンコみたいな職員はさすがにいないだろ」とか「検問シーンは緊迫しすぎて胃が痛かった」とか「お役所仕事で融通が利かないように見える国連軍も、あれはあれで仕方ない」とかとか、書きたいことはあるんですが、割愛! 国際NGOという知らない世界のお話として楽しみつつも「大変だなぁ… (´・ω・`) ウーン」と、いろいろ考えさせられた次第。僕も世間に役立つような、例えばボランティア活動でも始めようかと思うぐらいに良い映画だったのでね、機会があったらぜひ観てみてくださいな。
日本公開されたというフェルナンド・レオン・デ・アラノア監督の長編デビュー作。面白そうです。
パウラ・ファリアスによる原作小説。スペイン語なので気をつけて!
ボスニア紛争が舞台の作品。映画駄話会ではちごろうさんに指摘されて思い出しました。
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ロープ 戦場の生命線(ネタバレ)
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