※今回の記事は、半藤一利先生の「昭和史」の影響を強く受けたせいで、いつもと少し文体が違うが、御容赦願いたい。
9月1日(金)、私は愛聴しているラジオ番組「アフター6ジャンクション(略称:アトロク)」に出演した。RHYMESTERというHIPHOPグループのメンバーである宇多丸氏がメインパーソナリティーを務める番組である。
とても良き番組であり、間もなく「2」になるという。
私が呼ばれたのは「フューチャー&パスト」という、金曜日20時台の定番コーナーである。この時間、宇多丸氏は隔週で別の番組に出演しており、今回は不在のタイミングであった。「同コーナーのゲスト=フューチャー&パスター」に選ばれし者は、曜日パートナーである山本匠晃アナウンサーを相手に、同番組の一週間の内容を振り返らねばならない。しかしこの「アトロク」、毎週月曜から金曜の18時から21時まで放送されているため、まことに一週間を振り返るとするならば、前週金曜日20時台から今週金曜日の19時台まで、計15時間を聴き、言及する必要があった。
これは、私には大任であった。とはいえ、フューチャー&パスターに選ばれることは栄誉でもある。そして大恩ある宇多丸氏に万が一でも恥をかかせてはならない。番組の期待に応えるため、寸暇を惜しみ、番組出演の準備、その訓練に励んだ。そうして迎えた出演当日、自らのブログに「番組で取り上げられる予定の映画」の見解を予約投稿してから家を出て、かかりつけの心療内科で睡眠薬を処方してもらう。そこから下北沢に移動して番組で紹介された店で昼食を摂ると、九段下の昭和館で「昭和探偵 半藤一利展」を堪能したのち、秋葉原へと足を運ぶ。
コラムニストのしまおまほさんが勧める「織部 下北沢店」。ここでドライカレーを堪能したのだった。
先日、静岡県某所に家族旅行に赴いた際、立ち寄った場所で偶然、山本アナのサイン入り色紙を見つけて“縁”を感じ、私は出演時に持っていこうと土産を購入していた。ところがこの出演当日、それを自宅に忘れて出かけてしまったのだから、愚か者の誹りは免れない。しかし、気を取り直して検索してみると、秋葉原の「日本百貨店しょくひんかん」では、日本中の土産物が販売されているという。足を運んでみれば、なるほど、日本各地の土産物が揃っており、確かに静岡土産もあった。私は適当なものを2つほど購入して、TBSラジオのある赤坂に向かったのだった。
赤坂見附駅から行くか、赤坂駅から行くか、迷うところである。
TBSラジオに出演するのは、リモートも含めると、これで32回目となる。そう考えると、もう少し慣れてもよさそうなものだが、いまだに激しく緊張してしまう。受付を済ませてエレベータに乗り込むと、私だけしかいないので、即座に覆面を被る。その後のことは、放送を聴いていただければと思うが…。実は今回、私がこのブログで何よりも聴いてほしいと思っているのは、ポッドキャストではなく、ラジコでしか聞けない56分53秒からの「来週のお知らせ」の部分なのだ。
何の変哲もない「来週のお知らせ」だと思われるかもしれないが、違う! 違うのだッ!
「F&P」において、「今週の金曜日」まで話すには、通常よりも急ぎ気味で進行しなくてはならぬ。この進行、私1人では荷が重いが、山本アナ、簑和田プロデューサー、番組構成作家の古川耕氏らに助けられ、時に脱線しつつも、ある程度は己を律することに成功し、念願の「今週の金曜日」にまでたどり着いた。がしかし、ここで素人ゆえに油断し、浅はかさを露呈する。私が「竹内アンナさんのオーラに緊張した」云々と話しすぎたため、「来週のお知らせ」を話す時間が「56分53秒から59分00秒まで」の約2分しかなくなってしまった。己の所業に狼狽する私…。覆面の下はすでに半泣きであった。しかし、山本アナは「大丈夫です」とニコリ、爽やかな笑みを浮かべると、「来週のお知らせ」の原稿にキビキビと赤線を引き始めた。そう、自分が話す部分を削って調整しているのだ。
とはいえ、時間がない。スピーディーに文章を削っているが、必要な部分をしっかり見極めて残しているのか? いや、もう少し削った方がいいんじゃないのか? 噛んだりしないのか? 早口なら収まるとしても、リスナーが聴きやすい速度で話したら、やっぱり時間内に終わらないのではないか? そんな素人の不安は、杞憂であった。聴きやすい速度と話し方を維持したまま、山本アナは急ごしらえの「来週のお知らせ」をリズミカルに駆け抜けて、私と会話ができる数十秒すら残した。その様子はアクション映画の1シーンさながらで、「来週のお知らせ」が終わった瞬間、私は感激し、自然に「お見事です」と拍手した。まさに見事としか言いようがない「告知疾走(アナウンス・オーバードライブ)」であった(注:これは私の勝手なネーミングであった)。狭き門をくぐり抜けたTBSのアナウンサーなのだから、一流なのは無論承知していた気になっていたが、間近で「プロフェッショナルの技術」を見せられて、まことに感動した次第。
山本アナの絶技を目の当たりにした私は、志門剛俊のように覆面の下で目を潤ませていたという(「餓狼伝」第16巻より)。
10月から「アトロク」の時間が短縮され、「アトロク2」となるという。それ自体はまったくもって喜ばしいことであり、むしろ「もっと早く『2』にすべきだったのでは?」とすら思うが、それはそれとして。「F&P」というコーナーはなくならざるを得ないため、私が山本アナと今回のような時間を共有することは二度とないだろう。しかし、私は一生、あの日、あの時、あの瞬間を忘れない。山本アナ、本当にありがとうございました。
私はパスターでしかなく、彼こそがフューチャーだったのだ…って、我ながらよくわからないな(「アトロク」のインスタより)。
おしまい。