ばしゃ馬さんとビッグマウス
2013/日本 上映時間119分
監督・脚本:吉田恵輔
脚本:仁志原了
音楽:かみむら周平
出演:麻生久美子、安田章大、岡田義徳、山田真歩、清水優、秋野暢子、松金よね子、井上順
パンフレット:★★★(600円/封筒に入ってる→原稿用紙風のデザインがなかなか好き)
(あらすじ)
脚本家を目指す34歳の馬淵みち代(麻生久美子)は、学生時代からコンクールに作品を応募し続けているが落選ばかり。「私、こんなに頑張っているのに」が口癖で、周囲からは「ばしゃ馬さん」と呼ばれている。同じく脚本家志望の28歳・天童義美(安田章大)は、「俺が本気を出したらスゴイで」と言いながらも一度も作品を書いたことがなく、他人の作品を酷評してばかり。そんな「ビッグマウス」の天童が、年上で性格も真逆な馬淵に恋してしまったことから起こる騒動を描く。(以上、映画.comより)
予告編はこんな感じ↓
80点
2010年、「『さんかく ネタバレ』』というキーワードで検索してブログに来る人に申し訳なくて… (´・ω・`)」なんて理由で映画「さんかく」を観に行ったら、スゲー面白くてね。それ以来、「吉田恵輔監督は要チェックだな」と思ってはいたものの、今回の「ばしゃ馬さんとビッグマウス」はそんなに観る気が起きなかったんです。ただ、今週のムービーウォッチメンの監視対象に選ばれたので、良い機会だとシネマチネ割引を利用して新宿バルト9で観てきました。胸が痛くて死ぬかと思いましたよ… ('A`)
バルト9のシネマチネ割引は1200円で観られるのさ!
ロビーは駿の狂気が侵蝕してました。
自分が書いたファンタジー小説がベストセラーになるーー。そんなふうに考えていた時期が僕にもありました。中学1年から高校3年まで、テーブルトークRPGに超ハマりまして。毎回、僕が書いたシナリオ(a.k.a.どこからかパクってきたようなシロモノ)を友人たちが楽しんでくれたのが、僕の人生にとって初めての成功体験であり、それをキッカケに「将来は小説家になろう」とボンヤリ決意。で、実際にいろいろと書いてみたりしたものの、書くたびに己の凡庸さをイヤと言うほど思い知らされて。そのころ、ちょうど初カノが出来て、彼女と堅実な家庭を築きたかったのもあって、20歳のころにアッサリと夢を諦めた…というか、“結婚”という別の夢へスムースにシフトしたんですよね(結局、その夢も破れたんですがー)。
だから、まぁ、僕は主人公の馬淵みち代ほどの努力はしてないし、天童義美ほどの自信があったワケでもないんですが、今回の「ばしゃ馬さんとビッグマウス」は結構他人事とは思えなくて、悶絶しまくったというか。夢を諦めないことも才能なんだよなぁとか、今もいろいろと考えさせられている感じ。本当にね、ちょっと死にたくなりました…って、子持ちの社会人が書く文章じゃありませんな、すみません ('A`)
閑話休題。映画のことを書くと、なんとなく連想したのは石井裕也監督のこと。それまで「エキセントリックなキャラが暴走する」的な“勢い重視の作風”だったのに、今年観た「船を編む」が実に“地に足が付いた良い映画”になっていて驚かされたんですが、今回の吉田恵輔監督もそんな印象。なんて言うんですかね、今までは「面倒くさい登場人物が愚かさ丸出し状態で痛い行動をする」という“少し漫画チックな作風”だったけど、今作はしっかりと現実味のあるレベルに抑えつつ、でも、相変わらず“気まずい笑い”要素も上手く入れ込んだりしてて、スゴいなぁと。例えば、「みち代が『好きになっちゃうよ?』と言ったら、元カレが離れるシーン」とか、笑っちゃいましたよ(その直後の「危ナイ!」を連呼する外国人女性も大好き)。
つーか、今作は“人間同士の機微を描くバランス感覚”が絶妙。「コイツはクズ!」的な悪人は1人も出てこないんだけど(あの映画監督だって、別に悪くない)、タイミングが悪かったり、思惑がスレ違ったりして、なかなか上手く行かない状況を自然に映し出しているんですよね。僕は「さんかく」を観た後、「なま夏」
→「机のなかみ」
→「純喫茶磯辺」
と監督作を辿ってみて、「この監督は毎回レベルアップしてきたんだな」と思ったんですけど、この「ばしゃ馬さんとビッグマウス」でもまたその成長振りを見せつけられたような気がしました(という偉そうな文章)。
みち代の脚本が映画監督にダメ出しされる場面は、グレート巽に命令されて堤城平を襲ったドン・フライもどきを思い出したり。
主人公の馬淵みち代を演じた麻生久美子さんも素晴らしかった! 僕は特に出演作を追っかけてきたワケじゃありませんけど、この映画は彼女の代表作になったんじゃないでしょうか。しっかり面倒くさい女ではありつつも、「なまじ努力してきた分、ガマンもリミット」状態で必死に頑張る姿にはスゲー感情移入させられましたよ。唐突にオチを書いておくと、最後のシナリオも賞から落選して、彼女は田舎に帰ってしまうんですけど、そんな挫折エンドなのに、それでも何か爽やかさを感じてしまったのは、監督の演出力もあるんでしょうが、しかし! 何よりも麻生久美子さんの存在感によるところが大きかったのではないでしょうか。
麻生久美子さん、素敵でした。
あと、もう1人の主人公・天童義美を演じた安田章大さんも良かった! 最初はなかなかバカっぽかったのに、最後の方はちゃんと良い雰囲気の好青年にトランスフォームしてたりして、非常に役柄と合ったキャスティングだったと思います。みち代と別れるラストシーンの切ない雰囲気や、あの食い下がる姿にもグッときましたね~。その他、みち代の元カレ役の岡田義徳さんも良かったし(排泄物を処理しながらの説教シーンが最高)、成功する友人マツキヨ役の山田真歩さんも良い仕事をしてましたな(みち代との対立は、少し「カフェでよくかかっているJ-POPのボサノヴァカバーを歌う女の一生」を思い出したり)。
天童が片想いのまま終わるのが非常に良かったです。どんなに「寒ッ」と言われようと、有名になって迎えに行け!ヽ(`Д´)ノ
って、褒めまくってますけど、乗れないところもありまして。まず、シナリオ講座で知り合った人たちだったら、もっと映画やドラマ、有名な脚本家の話が出るんじゃないかなぁと(会話の中の比喩表現などでバンバン使用されるのでは)。僕はそう思って観てたので、例えば序盤の「“監督”をカン違いする展開」とかは少し興醒めというか。観客に“注釈”が必要な要素をあえて省いたとも思うんですが(安田さん目当ての若い観客が多いと考えると、それも正解だし)、結構不自然に感じちゃった次第。
あと、僕的に一番感情が盛り上がったのが、映画中盤の「みち代が元カレの家で『夢を叶えるのが難しいのはわかってたけど、夢を諦めるのってこんなに難しいの?(ノω・、し』と泣く場面」だっただけに、その後の展開が淡々としているように見えちゃったというか。いや、それはそれで悪くもないんですが、もう少しどうにかならなかったのかなぁと。その他、秋野暢子さんの母親演技自体は超素敵でしたけど、「元ソープ嬢設定」は蛇足というか、雑音に感じたり(ああいう映画でソープを出す姿勢は嫌いじゃないけど、あのキャラにそんな“影”を盛る必要はなかったと思う)。些末なところなんですがー。
このシーン自体は号泣したんですが。
ということで、ごめんなさい、吉田恵輔監督作としては「さんかく」の方が好きだけど、自分に当てはめて死ぬほど胸が痛くなったし、非常に良い作品でしたヨ (´∀`) スキヨ この映画が言うように、確かに夢は叶わないことも多いけど、夢を見る権利は誰にだってあってさ。挫折したなら、少し落ち込んだ後、大量の炭水化物でも食べて(肉でも可)、また違う夢に走り出せばいいじゃない。…って、よくよく考えると、僕なんぞはそういう軽い姿勢だから何も成し遂げていないような気がしてきました… ('A`) シニタイ
吉田恵輔監督作で一番好きなのはこれです。
↧
ばしゃ馬さんとビッグマウス(ネタバレ)
↧